通常、「学ぶ」ということは、「新しく知識や技術を加える」と考えます。自分の中に新しいものが加わり、引き出しが一つ増えるようなイメージを持っているのではないでしょうか？

我々はこれまでに多くの事を学び蓄え、それを糧に生きてきました。生まれた頃に比べると、できることは格段に増え、複雑なことを行うことができるようになっています。正に、「学びによる獲得」によって得られたものです。

しかし、アレクサンダーテクニークを学ぶ上では、「獲得」だけでなく「いらないものを捨てていく」、つまり「足し算」ではなく「引き算」の作業があります。実は、蓄積されたものの中には、自分を苦しめている習慣が多く含まれており、それを整理して無駄を省き、シンプルにしていく作業です。

具体的な例を挙げてみましょう。

【肩こりの場合】肩をこらせてしまう自分の習慣・反応があります。肩をこらせているのは自分自身です。その習慣を手放し、反応しないということが大切なのです。

【人前での緊張】自分の習慣的反応をよく観察し、人前に立った時に問題になる筋緊張を捉えることができるようになっていくと、それに反応しないようにすることを理解することができるようになります。つまり、自分の習慣を手放していくことが求められるのです。

（勿論どちらの例に関しても、全身のバランスが整うということも同時進行で行われなければなりませんが）


テクニークの中では、身体や心の事を理解し、あらためて様々な角度から学んでいきますから、全てが引き算ではないのですが、筋感覚的な学びの中では特に蓄積された習慣を手放すことが必要不可欠となってきますので、「する」よりも「しない」方向に舵を切ります。

「邪魔をしない」
「余計なことをしない」
「何もしない」
「反応しない」

などどレッスンの中では表現されるのが、それにあたります。

皆さん、最初はそういった考え方がよくわからず、かなり戸惑われます。
（私も最初はそうでした！！）

でも、理解できると・・「なるほど」と腑に落ち、実践に移せるようになっていきます。


この部分が、他の方法論との大きな違いになるだろう、と私は考えています。

正に「引き算の美学」とも言えるのではないでしょうか。


少し話しは変わりますが・・・・
ある化粧品会社は、「化粧する（+）」のではなく「化粧をしない（-）」を推奨しています。つまり、皮膚本来の機能を取り戻し、付け加え補うのではなく、そのものも美しさを引き出すことを大切にされているようです。ファンデーションをつけなくても、つけているかのような素肌の美しさを追及しているのです。ここにも「引き算の美学」を感じられますね。

※実は、私もオランダ生活が始まってから化粧はしなくなりました。（ほっぺたを合わして挨拶することが日常になったので、化粧をしても仕方がなかった・・というのがきっかけですが！　笑）今は、基礎化粧品に日焼け止めをつけるだけで、ほったらかしです。しかし肌はこの方が格段に元気になりました。「余計なことをしない」ことが、肌本来の力を養うことができたのでしょう。20～30代は本当に酷い肌荒れだったのに。
これも「引き算の美学」ですね！


何か新しいことをする
何か新しいことを学ぶ

そういったとき、我々の考えの中にも、「加える」ことばかりではなく、「引いていく」観点も備えておきたいものです。そうすれば、様々な方向から物事を捉えられるようになるかもしれませんね。

アレクサンダー・テクニークの「学び」には、

Doingではなく、Non-doing　が存在します。

「引き算の美学」を生かして欲しいと願っています！