コラム②


3月下旬頃より、「右腕に麻痺がある」という方とのレッスンがありました。
ご本人の話では、麻痺が起こった原因もはっきりせず、「車のドアが閉めにくい」など、日常の動きの中で何となく感じ始め、数日経つうちに徐々にはっきりと自覚できるようになり、力を入れようとしても力が入らない状態になったそうです。

その後すぐに、病院を受診。レントゲン、CTスキャンを撮り、脊椎、頭部のチェック。その結果、腰椎に若干のすべり症があるとのこと。頭部などには異常は見当たらないと言われたそうです(麻痺の主たる原因がわからない)。その後、一週間ほどビタミン注射のために通院されたようです。(リハビリは無し)

私のレッスンに来られた時は、レントゲンなどの検査を受けられた二日後でした。右腕を体側に上げようとすると上がらず、左手で必死に支えてやっと上げることができる状態で、不自由さを訴えておられました。

色々とお話を聞きながら分かってきたことは、
・上腕三頭筋あたりが麻痺している。
・触覚はある(触ると感じることができる)。
・しかし動かそうとすると、その部分が反応せず動かない。

私から見て特に気になることは、
・麻痺している部分をかばおうと必死になっている(麻痺の部分に集中しすぎている)。
・全身のバランスが崩れ、麻痺以外の部位に過剰な硬直(緊張)がある。
                                   など

生徒さんには「麻痺が気になると思いますが、必死になる気持ちをまず静めていきましょう」と話しながら、通常の基本のレッスンから始めました。
・プライマリーコントロール(首・頭・背中の関係性)を意識すること
・過剰反応をしないこと(精神的身体的反応)
・全身にまんべんなく意識を向けること             など

そして次の段階、できなくなっている「腕を上げる動き」を行いました。

特に私が重点を置いた観点は、二つ。

麻痺のある部分に私の手を置きながら行う。(「あなたが使いたい部分はここですよ!」というメッセージを送るために)※但し、私が生徒さんを動かすのではなく、生徒さん自身が腕を上げようとする活動を、触覚でサポートする。
両腕を一緒に上げ、同じ動きを左右対称同時に行う。(問題の無い左腕の動きが、麻痺のある右腕の動きのアドバイザーになる。そして同時に、全身のバランスを崩さずに適切な筋活動を導くことができるため)

「感覚があるが動かせない」ということは、感覚神経は〇、でも運動神経が×で上手く機能していないということです。ですから、ご本人の「腕を上げよう」という脳からの指令を、問題の無い左腕の動きと照らし合わせながら、全身の動きの一部として、右腕の運動神経に働きかけたかったのです。

「あれ?この辺りに力が入らないんですね」
「先生に触ってもらえるとわかりやすいです」
「左腕と同じように動かそうとするんですね」

生徒さん自身も試行錯誤しながら・・・・

こういったレッスンを繰り返し、およそ1か月半(レッスン6~7回程)で症状は改善。ご本人曰く、「ゴールデンウィークの頃には気にならなくなった」そうです。バランスの悪い動きも残らず、以前の状態に戻られています。

この生徒さんは、これまでにアレクサンダーテクニークのレッスンを定期的に受けられている方でしたので、私が示したやり方に対する理解も早く、効果も早く表れたのではと思います。また、麻痺自体も軽度なものだったのも幸いしたと考えられます。

今回の改善例が、このレッスンのお陰であると断定はできません。しかし「自分で自分を使う」という観点から、麻痺した神経回路に働きかけることは、大きな助けになったのではないかと考えています。*生徒さん自身も、「レッスンが非常に助けになった」と述べられています。

「意識し、選び、動く」 テクニークの深さを改めて実感しています。

私自身、非常に学ぶことの多い事例でした。

PS~ F.M.アレクサンダー自身も78歳の頃、脳卒中で左半身に麻痺が残ったそうです。その後、彼自身が開発したこのテクニークを用いて回復した、という記録があります。



アレクサンダー・テクニークのレッスンの中では

「無駄な緊張を止めましょう」
「首を自由に、解放してあげましょう」
「ほったらかしにしましょう」  etc.

これらの言葉を繰り返し、理解を深めながら進めていきますが、

ついつい「弛緩すること」を重視してしまう場合があります。
中には、筋緊張自体が「悪」であるかのように感じてしまう人もいます。

実は、これは大きな間違いです。

これらの言葉の本当の目的は、コーディネートされた全身の活動を導くためのベースとなる『適切な緊張の度合い』を見つけることなのです。

我々が生きていくためには、姿勢や体温を保持したりなどの生命維持のために必要な筋緊張(muscle tone)がベースにあり、この適度な筋緊張があってこそ、随意運動(「腕を上げたい!」→腕が上がる)としての筋緊張がスムーズに行われるのです。筋肉は、常に適度な収縮力と張力があり、持続的なことが重要です

「弛緩すること」ばかりを重視すると、筋緊張が足りないために支えることができなくなってしまったり、「動こう」とした時に筋力を伴うことができなくなります。また一方で、「緊張すること(筋肉を硬くすること)」に懸命になりすぎると、無秩序で過剰な活動を繰り返し過度な緊張状態が常態化し、目的を果たすどころか慢性疲労や怪我などの問題を導いてしまいます。緊張の程度を間違うと、どちらの場合もバランスを崩す方向に向かいます。

緊張しすぎもダメ
弛緩しすぎてもダメ    なのです。

長い年月をかけて習慣的な使い方を構築していく我々は、適切な度合いはどこなのかが分からずに無茶苦茶な使い方に陥ってしまいます。

このような混乱状態から抜け出すためのアプローチとしての、冒頭の言葉であり、
決して「弛む」ことだけを目的としていません。

全身が調和を持って動ける、コーディネートされた使い方のベースとなる『適切な筋緊張の度合い』を見つけていく為の言葉がけなのです。

※このようなことを捉える時、大抵は「硬くする(筋収縮、筋力を使う、筋力をつける etc.)」か、「弛める(筋弛緩、リラックスする、ストレッチする etc.)」のどちらか一方のみで考えがちです。ですから、「アレクサンダー・テクニークでは弛緩が大切なのだ」と、一方向のみで捉えられ易いのかもしれません。


あなたにとっての「適切な筋緊張の度合い」 

全身的な根本的コーディネートを整えつつ、見つけていきましょう!

 

「リンク」日本語としての市民権を、近年完全に獲得してますね。

今は、この言葉の意味は殆どの方が理解できます。

この言葉との付き合いに不慣れな我々としては、SNSやInternet上の繋がりのみをイメージしてしまいがちですが、もっと用語として深く捉えれば、「物事を連結させ、それらを繋ぐことによって、更に広く、また深くその意味を掘り下げる・・・」ということかと思います。

実はこの「リンク」、テクニークを学ぶ上でも非常に重要です。

レッスンを受けられる方は・・・・

音楽やダンス、スポーツに生かしたい人、人前での緊張を改善したい人スムーズに話せるようになりたい人腰痛や肩こりを改善したい人 などなど。動機や目的は多岐に渡ります。

しかしレッスンで行う基本的なことは同じです。(人間の根本的な使い方についての学習だからです。) そして、そのレッスン後、生徒さん自身がしなければならない重大なことが残っています。つまり、学習したことを自分の目的にリンクできるか?ということです。

時折「先生と一緒にすればできるんですけど・・・ひとりだと・・・できません」と言われます。我々指導者は、ハンズオン(生徒の身体に指導者の手を置きながら行う)によって新しい体験を提供し、考え方などのヒントを伝えていきます。しかし、生徒さんの実生活まで付き添うことは不可能です。レッスンで学んだことを実践していくのは、生徒さん自身に託されているのです。レッスンを受け始めた当初は、皆、必ず試行錯誤する期間があり、満足できない状況を繰り返します。しかし、「自分が今まで行ってきた無駄な習慣はこういう事なのか・・・ではどうすればいいのか? どのように考えていけば良いのか?」など、新しい考えを受入れ深めることを怠らなければ、少しずつ自分自身で実践できるようになっていきます。

ところが、レッスン中の快適さ(「何だか心地いい」「リラックスできる」etc.)だけを求め、指導者に頼り切った状態では、いつまでたっても何も変わりません。 受け身気分のままでは、「新しい自分」は育まれないのです。

一方で、この「リンクする」ことに高い感性を持っていて、“研ぎ澄まされている人”は、すぐに応用できるようになります。※各分野のトップに名を連ねる方々は、殆どがこのような方です。

我々は何か新しいことを学ぼうとした時、様々なことを関連付けて繋ぎ、連結させていくことによって、大きな器を作っていくことを忘れてはいけません。それが無ければ、非常に味気ない狭い範囲での学びになってしまいますよね。どのような分野の学びでも、その視点を忘れてはいけないのです。

テクニークのレッスンは学習です(あなたは治療を受ける患者ではありません)。

受け身の学習者ではなく、能動的な学習者になりましょう。

そして、「リンク」させていく感性を研ぎ澄ましましょう!!

繋ぐ、組み合わせる、関連づける・・・・これが“学びの基本”です!

P.S. 当サイトの「アレクサンダー・テクニーク」ページには「理解する上で大切な事」と題して4ポイントを記しています。ご参考までに♪